出版社 |
古今書院
出版年 |
2005年
カテゴリーy |
GIS:基礎実践例 |
レベル |
初級者 |
推薦者 |
駒木伸比古 |
レビュー |
本書は,ArcGISを用いた地域分析のための入門テキストである。執筆者はGISに関する経験の豊富な10名の研究者であり,全3部14章で構成されている。第1部では,ArcGISに関する用語やデータ構造,操作方法が解説されている。次の第2部では,テーマ別の分析事例が紹介されている。テーマは地形,土地利用,文化的事象,人口,都市環境,農業,商業と,多岐にわたっている。そして第3部では,GISデータの変換・設定方法が解説され,最後に地域分析におけるGISの有効性・将来性が提示されている。
いずれの章でも,読者が初級者であることを想定した配慮がみられる。例えば事例紹介の章では,データの入手・加工から分析操作,結果の表示に至るまでの一連の過程が,省略されることなく説明されている。また操作方法の説明では,表示画面の説明だけでなく,どのボタンを押せばよいか,どのような数式・コマンドを入力すればよいかなどが,丁寧に記載されている。
さらに,内容が単なる紹介・解説にとどまらない点も指摘したい。例えば第13章「測地系と座標系」では,初級者が犯しやすい測地系・投影法の設定ミスに関する話題が提供されている。実際に設定ミスが生じている画面が示され,なぜそのようになったのか,そしてどのような操作を行えば解決するのか,が解説されている。
評者は今まで,GIS操作に関する相談を何度か受けたことがあった。そのほとんどが,「地図が重ならない」,「場所がずれる」など,測地系・投影法の設定に関する内容であった。かくいう評者自身も,GISの利用当初はたびたびそのような問題に直面していた。こうした初級者ならではのミスを取り上げ,詳細に説明を行っているテキストはほとんどみられない。初級者のための入門テキストとして,本書を推奨する所以である。
惜しむらくは,本書で使用しているArcGISのバージョンが,9.0と多少古い点である。9.0から9.1へとバージョンアップされた際に,ネットワーク分析が可能な「Network Analyst機能」など,いくつかの機能が追加された。残念ながら,これら新機能を利用した分析は載っていない。
とはいえ本書には,ArcGISによる地域分析の基本項目が,余すところなく記載されている。掲載手順に沿って操作・学習すれば,基本的な地域分析スキルは十分得られるといっても過言ではなかろう。これからArcGISを利用しようとする人や初級者を対象としたGIS講習を行う人に,ぜひともお薦めしたい一冊である。
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書名 |
GISで環境学習―都市環境・野生生物・汚染物質―
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著者 |
R.オーデット・G.ルドウィグ著 / 岡部篤・鈴木厚志・黒岩朋子訳 |
出版社 |
古今書院 |
出版年 |
2002年 |
カテゴリー |
GIS・環境学習・教育 |
レベル |
初級者〜 |
推薦者 |
橋本 操 |
レビュー |
本書は、海外の各種各学校における環境学習のGISの活用例を具体的に紹介しながら、GIS教育と教育におけるGISの役割、それらの意義について論じた本である。具体的には、都市の安全、汚染化学物質及び水質評価と予測、野生生物の保護、地域文化の保存などについて、小学校から高校までの環境学習の授業やそこから発生したプロジェクトを紹介している。そして、GISを活用した教育の利点と行うに当たっての注意点や課題などを示している。
本書は読者として、教師などの教育関係者を対象として書かれており、実際の環境学習に取り入れることができるように、事例紹介といった形式をとっている。しかし、個人的にはGIS初心者にも勧めたい。その理由は、紹介されている事例の授業の受講者は、小学生から高校生という子ども達であり、GISは子どもでも使用できるツールであるということ、さらにはそれらが子ども達の思考をより高めるための支援となっていることが分かることである。GIS初心者にとって、GISは難しい特殊な技術であるように感じると思うが、小学生くらいの子どもも利用でき、その活用例も多岐に渡っていることから、応用範囲の広いツールであることが分かると思う。
もう一つの理由はとりわけ、日本において環境と言うと“自然環境”を意識しがちであるが、都市の安全や地域文化の保存と言った“社会環境”も一つであることが分かり、GISが自然・社会のどのような環境問題にも対応できるツールであることが示されているからである。
本書で特に重要なことは、どの事例にもGISを利用した環境学習が教室の中だけで終わらず、教室外へ出て活動することが含まれていることである。教室内でGISを利用した解析を行うだけでなく、教室外へ出てデータを取得したり、実際に自分たちの身近で起きている事件や事象へプログラムを応用したりと、実践的な活動も紹介されている。これらは、地理学においてフィールドワークと言われる、基本的な研究方法であり、研究者がよく行う方法を生徒たちに教えることで、将来の研究者の育成にもつながることが考えられる。近年よく教育レベルの低下、特に問題解決能力の低下が問題になっている。本書では、授業を通して子ども達が実際に起きている問題を解決する能力を磨いていく過程が紹介されており、教育レベルの向上へのヒントも示されていると言える。
しかし、本書はより具体的・詳細なGISの使用方法は示されておらず、GIS学習及びGISを使用した環境学習への導入本である。そのため、GISの使用及び分析方法について取り上げられている他書との併読も同時に勧める。使用方法については他書に譲るとして、教育とGISとの結び付けや問題の発案へのヒントとして本書を大いに活用していただきたいものである。またGIS初心者には、GISの活用事例集としての導入本となることを期待する。
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書名 |
図解ArcGIS−身近な事例で学ぼう−
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著者 |
佐土原聡・吉田聡・川崎昭如・古屋貴司 |
出版社 |
古今書院 |
出版年 |
2005年 |
カテゴリー |
GIS:基礎実践例 |
レベル |
初級者〜 |
推薦者 |
曽我俊生 |
レビュー |
本書は,横浜国立大学の佐土原氏・吉田氏・川崎氏(当時)・古屋氏が中心となって作成したArcGISの入門テキストである.全6章構成であり,GISやArcGISの概論を述べた第1章以降は,演習形式でその使用方法を解説している.
第2章では地図の表示方法やフィールド演算,テーブル結合等の基本を学び,第3章でエディタ機能の使用法,第4章で空間検索の仕方を習得する.続く第5章ではSpatial Analystを用いたラスタデータの解析,第6章ではジオプロセシング機能やジオリファレンスの方法を学ぶ.
各演習の課題は,条件に適した一人暮らし用アパートを選定したり,パークアンドライドを実行する上で最適な駐車場の場所を決定するなど,比較的身近に感じられる題材が多く,興味を持って学習できる仕組みになっている.なお演習で使用するデータは,利用登録をすることで横浜国立大学の専用サーバからダウンロードできる.
本書は操作方法が詳細に記載されており,注釈や操作上注意すべき点なども付け加えられているため,初心者の独習にふさわしいテキストと言える.各演習に必要な所要時間が記載されている点も,著者らの独習者に対する配慮と言えよう.ただし懇切丁寧なテキストであるとはいえ,第5章以降は複雑な演習になる.そのため初心者が本書で学習する場合,各項目を着実に理解した上で次段階へ進むことが求められる.
入門テキストとしてページ数が抑えられているものの,充実の内容で,項目は多岐に及ぶ.学習者が本書の内容を十分に理解できれば,総合的なスキルを習得できるであろう.学習者自身で取得したデータを用いて分析するといった応用も可能である.
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書名 |
シリーズGIS 第3巻 生活・文化のためのGIS
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著者 |
村山 祐司, 柴崎 亮介, 平井 松午, 田中 耕市 |
出版社 |
朝倉書店 |
出版年 |
2009年 |
カテゴリー |
GIS・実践例 |
レベル |
中級者〜 |
推薦者 |
渡辺理絵 |
レビュー |
本書は、医療、犯罪、エンターテインメントなど生活・文化に関わる分野におけるGISの活用例を具体的に紹介しながら、GISの役割と意義を論じた本である。以下、各項目の概要を簡単に紹介したい。
1.概論→日進月歩で進むGISの発展と社会生活への普及について、我々は漠然と感じつつもその具体的諸相を挙げるとなると、意外と難しい。本章では、その答えを明瞭簡潔に説いてくれている。デジタルマッピングサービスの興隆から始まり、GPSなどのGIS関連技術の現況、さらに、GISで使われるデジタルデータの概要にも触れられている。GISハードユーザーでも意外に見落としている情報に気づく。本章は丁寧な情報提供の窓口にもなっている。
2.エンターテイメントとGIS→GISがエンターテイメントとしてどのような娯楽的ニーズに応えているかを説く。たとえば、過去の地図と現況の地図の重ね合わせ地図、京都バーチャル3Dマップでバーチャルの京都散策など、デジタルマップに興味を持つきっかけを与える享楽的なサービスである。GISに興味を持つきっかけとしても、本章の紹介は有効であろう。
3.ナビゲーションとGIS→カーナビゲーションを事例として、GISの働きの近似性に焦点をあてた章。GISとGPSの連関は周知のごとくであるが、GISの基本性能を、カーナビゲーションにたとえて説明すれば、カーナビに慣れた一般の方には、より分かりやすくなるであろう。
4.スポーツとGIS→スイミングスクールの商圏やフィットネスクラブの参加率と距離効果、スポーツクラブ会員の時空間行動など、スポーツを目的とした人々の行動をGISで分析した事例が紹介。この章は、演習型となっており分析の手順が丁寧に紹介されているため、こうした分析に初挑戦するユーザーにとって参考となる点が多い。
5.市民参加型GIS,コミュニケーションとGIS→市民参加型GISの展望を示した章。市民参加型GISの歴史や近年、注目集めている島根県や熊本県の事例を紹介。さらに市民参加型GISの現況と課題に言及する。
6.ハザードマップ・災害・防災とGIS→ハザードマップの有用性について実際の災害を事例として紹介。記憶に新しい災害が多いため、そこで果たしたハザードマップの役割には驚愕せざるを得ない。本章は、こうした減災に通じるGISの貢献について、実際の事例を踏まえ論理的に解説している。
7.犯罪・安全・安心とGIS→おもに犯罪とその発生場所に関するGIS分析について言及した章。特筆すべきは、犯罪を扱ったGIS分析の先行研究を紹介したうえで、犯罪データを扱う際の注意点について言及している点。犯罪事件を地理的に分析することで得られる知見が、地域住民にとって有益となることは容易に想像できるが、分析に用いる犯罪データへの注意点については、読破後に納得する感がある。
8.医療・保健・健康とGIS→疾病に関する論理的な分析手法に言及。疾病は、医学的・疫学的知識が求められるため、たとえ空間統計解析を主要なツールとしても、その分析は決して容易ではない。本章は、分析手法の解説というよりは、分析事例を踏まえながら、適した地図表現の種類、この分野で多用される統計分析の紹介など論理的側面からの説明で構成。
9.考古・文化財とGIS→近年、古代の分野に関する歴史は、邪馬台国論争にみるように、文献資料から発掘資料を根拠として立論する動きが一層強い。発掘データの空間分析は、この傾向に一層拍車をかけるであろう。本章では、考古学におけるGIS活用の現況と到達点を示しており、データの整備状況も合わせて紹介されている。
10.歴史・地理とGIS→近年、活発化している人文科学分野におけるGISの利用について集約した章。近世の武士の日記から、行動地理学的な分析を試みた応用例を紹介し、この分野におけるGISの有用性を説く。著者は、現況の人文科学分野におけるGISの利用段階を黎明期と位置づけ、そこから次段階へ進むために行われている新たな試みと今後の展望を述べている。
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