歴史統計Web GISの構築
村山祐司(筑波大学地球科学系)
1. はじめに
WebGISは,インターネット,ウェブブラウザの登場とともに発達してきた技術であり,今日広く利用されている.
本研究は歴史統計Web GISを構築することを目的としている.筆者らは明治・大正期における人口属性の空間解析をリアルタイムでおこなうシステムを開発してきたが,本研究ではこれを発展させ,データを統合して処理できるようにRDBMS(リレーショナル・データベース・システム)を活用し,分析機能を増やすことに努めた(村山・尾野,1998).さらに,インターネット技術の最新の技術成果を取り入れて,動作パフォーマンスの向上を目指した.
図1 歴史統計Web GISのシステム構成図
2. システム構成
2.1 サーバ
ハードウェア
CPU::ペンティアム
ソフトウェア
OS: WindowsNT Server 4.0 SP6.0a
サーバソフト: Microsoft Internet Information Server(IIS) 4.0
データベースソフト:MS Access2000
2.2 クライアント
ハードウェア
PC:
CPU::ペンティアムU以上
メモリー:64メガバイト以上
マッキントッシュ:
CPU::PowerPC
メモリー:64メガバイト以上
ソフトウェア
PC:
OS: Windows9X・WindowsNT 4.0・Windows2000
ブラウザ: Microsoft Internet Explorer 4.01以上
Java:JDK Version 1,1.*以上
マッキントッシュ:
OS: MacOS
ブラウザ: Microsoft Internet Explorer 5以上
Java:JDK Version 1,1.*以上
3. データ
3.1 メタデータ
これは本システムで使用するデータの情報であり,MSアクセスで作成されたデータベースに格納される.
3.2 地図データ
ESRI社の公開フォーマット,シェープファイル形式で格納され,さらに転送時間を高速にするために,ZIP形式で圧縮されている.このため,従来のシステムと比べて,ファイルサイズは平均半分になり,転送速度は約2倍になっている.
5.2.
属性データ
属性データはMSアクセスにすべて格納される.
4. プログラム
4.1 サーバ側
@ メタデータ取得(ASP(VBScript))
A 属性データ取得(ASP(VBScript))
B 地図データ取得(ASP(VBScript))
C 分析
・基本統計量(ASP(VBScript))
・回帰分析(ASP(JScript))
・因子分析(+クラスター分析(ウォード法))(ASP(JScript))
回帰分析および因子分析については,群馬大学社会情報学部青木繁伸教授がWeb上で公開しているJavaScriptによるプログラム(http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/JavaScript/)を許可を得て使用する.
4.2 クライアント側
イギリスのLeeds大学地理学科のCentre for Computational GeographyがJavaで開発したフリーウェアのGISエンジンGeoTools(http://www.ccg.leeds.ac.uk/geotools/)をベースにしたJavaアプレットを利用する.
5. 機能
5.1 地図選択
歴史統計WebGISのホームページにアクセスすると,図2の起動画面が表示される.
図2 歴史統計WebGISの起動画面
図3は歴史統計WebGISの画面構成である.
図3 歴史統計WebGISの画面構成
表示したい年次を最初に選択する(図4).
図4 年次の選択
年次を選択すると右の選択ボックスに各年次に対応する地域のリストが表示される.この地域リストより,表示したい地域をマウスをクリックして選択する(図5).
図5 地域の選択
地域を選択した後,ボタンをマウスでクリックすると,サーバより地図データが転送される.転送が終了すると,地図が表示される(図6).
図6 選択後の地図表示
5.2
地図表示
5.2.1 地図表示メニュー
メニューバーの「地図表示」ボタンをマウスでクリックすると,図7の「地図表示の選択」ウィンドーが表示される.
図7 「地図表示の選択」ウィンドー
地図表示には,コロプレスマップと円ドット図の2タイプが用意されている.
5.2.2 コロプレスマップ
5.2.2.1 「地図表示」ウィンドー
「地図表示の選択」ウィンドーにおいて,コロプレスマップのボタンをマウスでクリックすると,図8の「コロプレスマップ」メニューが表示される.
図8 「地図表示の選択」ウィンドー
5.2.2.2 コロプレスマップ表示
「地図表示の選択」ウィンドーで表示したい属性項目,地図表示種類および階級値をマウスで選択し,「閉じる」ボタンを押すと,地図が表示される(図9).
図9 コロプレスマップの表示例
地図は比率尺度に変換して表示することもできる.「正規化用項目」をマウスでクリックしてチェックすると,右にある属性項目選択リストが有効になる.この標準化リストから分母として該当する変数を選択する(図10).
図10 正規化用項目の選択例
図11は地図表示の例を示したものである.
図11 正規化用項目の選択後の地図表示例
5.2.2.3 地図表示のタイプ
コロプレスマップを作成する際には,以下の3つのタイプの地図表示が可能である.
・等間隔表示
・等サイズ表示
・標準化表示
5.2.2.3.1 等間隔表示
等間隔表示は,各階級の間隔(幅)を等しくする地図表示の方法である.本システムでは,3から9階級まで指定できる.等間隔表示の出力例を図12に示す.
図12 等間隔表示の例
5.2.2.3.2 等サイズ表示
等サイズ表示は,各階級に含まれる統計単位を等しくする地図表示の方法である.本システムでは,階級値は3から9階級まで指定できる.等サイズ表示の出力例を図13に示す.
図13 等サイズの出力例
標準化地図表示
標準化地図表示では,属性値を標準化した値を表示できる.階級値は他のタイプとは異なり,平均値を中心に,標準偏差の1.0倍,0.5倍,および0.25倍で区切る.
図14 標準化の出力例
5.2.2.4. 円ドット図
円ドット図を選択すると,図15のような出力結果が表示される.
図15 円ドット図
5.2.3 地図表示コントロール
地図表示のコントロールは,ツールバー上のボタンをマウスでクリックしておこなう.以下の機能を有する.
・拡大 ・縮小 ・移動 ・全体表示 ・情報 ・ラベル表示/ラベル非表示
拡大ボタンを押すと,図16のように拡大表示される.ボタンを押した後は,マウスカーソルが十字に変わり,マウスによるボックス指定でも拡大表示できる.
図16 拡大表示の例
「縮小」ボタンを押すと,図17のように縮小表示される.その後は,マウスカーソルが十字に変わり,シフトキーを押しながら,マウスキーをクリックしても縮小表示ができる.
図17 縮小表示の例
「移動」ボタンを押すと,手のアイコンが表示される.マウスでドラッグして,図18のように表示位置を移動できる.
図18 移動表示の例
「全体表示」ボタンを押すと,図19のように,図全体が表示される.
.
図19 全体表示の例
「情報」ボタンを押すと,属性データが読みこまれている場合,マウスのフォーカスのあったポリゴンの属性情報が図20のように表示される.
図20 情報表示の例
「ラベル表示」ボタンを押すと,図21のように統計単位の地名が表示され,ボタン名が「ラベル非表示」になる.ラベルを消去するには,「ラベル非表示」ボタンを押す.
図21 ラベル表示の例
5.2.4 全体図
凡例表示の上の「全体図」タブをマウスでクリックすると,現在表示されている地図の全体図と表示範囲が水色で示される(図22).
図22 全体図
5.3 属性検索
メニューバーから,「検索」ボタンを押すと,図23の「属性検索」ウィンドーが表示される.
図23 「属性検索」ウィンドー
「属性検索」ウィンドーより,表示したい項目と論理式をマウスで選択後,値を数値で入力し,リターンキーを押す.変数がすでに読み込まれていない場合は,サーバへデータを取りいくので,結果を表示するには多少の時間がかかる.図24が,検索結果の例である.
図24 属性検索結果の例
(鉱業本業者・本業者(男)が500人以上が青色)
「検索条件反転」ボタンを押すと,条件式が現在選択されているものと逆になり,この条件が実行される.図25に条件反転の例を示す.
図25 検索条件反転の例
「選択部分拡大」ボタンを押すと,現在選択されている部分が拡大される(図26).
図26 選択部分の拡大表示の例
5.4 グラフ表示
この機能は地図表示と連動し,散布図を作成する.メニューバーの「グラフ」ボタンを押すと,図27の「散布図」ウィンドーが表示される.
図27 「散布図」ウィンドー
「散布図」ウィンドーの「項目選択」ボタンを押すと,図28の「項目選択」ウィンドーが表示される.
図28 「項目選択」ウィンドー
図29に表示例を示す.
図29 散布図の表示例
「選択」ボタンを押し,散布図の任意の点をマウスでボックスで囲んで指定すると,これと連動してこの点に対応する統計単位が青色で選択される(図30,31).ただし,この場合,地図に属性値のコロプレスマップが表示されていなければならない.
図30 散布図上で選択された点(青い色の点)
図31 選択された任意の点に対応する統計単位(青色)
「ラベル表示」ボタンを押すと,散布図における各点の統計単位名が表示される(図32).ラベル表示をオフにするには,再度ボタンを押す.
図32 ラベル表示の例
「回帰分析」ボタンを押すと,現在表示されている散布図の単回帰分析の結果(相関係数,単回帰分析の回帰係数・切片)が,図33のように表示される.
図33 「回帰分析」ウィンドー
さらに,回帰直線が赤い色で,散布図上に表示される(図34).
図34 回帰直線の表示例
「拡大」ボタンを押し,マウスで任意のボックスを指定すると,表示が拡大される(図35).
図35 拡大表示の例
逆に「縮小」ボタンを押すと,縮小表示される.
「移動」ボタンを押すと,散布図上で点の分布を移動できる(図36).
図36 移動表示の例
「リセット」ボタンを押すと,散布図の表示を元のサイズに戻すことができる(図37).
図37 リセットの例
5.5
分析
5.5.1 「分析」ウィンドー
メニューバーより,「分析」ボタンを押すと,図38のウインドーが表示される.
図38 「分析」ウィンドー
5・5.2 基本統計量
基本統計量を求めるには,「分析手法選択」リストより,「基本統計量」を選択する(図39).
図39 基本統計量選択後の「分析」ウィンドー
次に,変数リストより,任意の変数をひとつ選択し,「実行」ボタンを押す.するとサーバより計算結果が返され,結果が図40のように表示される.
図40 基本統計量の結果の表示
5.5.3 回帰分析
「分析」ウィンドーの「分析手法選択」リストより,「回帰分析」を選択する(図41).
図41 回帰分析選択後の「分析」ウィンドー
従属変数と独立変数(複数選択可能)を選択して,「実行」ボタンを押すと,サーバより計算結果が返され,統計値が図42のように表示される.
図42 回帰分析の結果の表示
回帰分析にもとづく予測値と残差値の地図表示に関しては,「地図表示」タブをマウスでクリック(図43)すると,計算結果のリスト(図44)と残差図が表示される(図45).
図43 地図表示タブ選択の例
図44 計算結果のリスト表示の例
図45 地図表示(残差値)の例
5.5.4 因子分析
「分析」ウィンドーの「分析手法選択」リストより,「因子分析」を選択する(図46).
図46 因子分析選択後の「分析」ウィンドー
選択する変数を複数個選択し,「実行」ボタンを押す.サーバより計算結果が返されると,「結果表示」ボタンが有効になる.このボタンを押すと,結果(因子負荷量)が表示される(図47).途中経過は,メッセージフィールドに示される.
図47 因子分負荷量の表示
因子分析の結果,表示ウィンドーの上の「累積寄与率」タブを押すと,図48を得る.
図48 累積寄与率の結果
5.5.5 クラスター分析
クラスター分析は,「クラスター分析」ボタンを押すと実行される.図49の「クラスター分析」ウィンドーが表示される.
図49 「クラスター分析」ウィンドーの表示
「デンドログラム表示」ボタンを押すと,デンドログラム(樹形図)が描画される(図50).
図50 デンドログラムの表示
デンドログラムの表示においては,マウスを使って,拡大・縮小が可能である.「再描画」ボタンを押すと,元の表示に戻る.
グループ化リストで,グループ数を指定し,「グループ化」ボタンを押すと,グループ化された地図が表示される.
参考文献
1)村山祐司(1996):インターネット(WWW)による明治期地域統計検索・地図表示システム,多目的統計データバンク年報(筑波大学社会工学系),72, 69〜79.
2)村山祐司(1997):インターネットによる歴史統計GISの構築,多目的統計データバンク年報(筑波大学社会工学系),73, 99〜109.
3)村山祐司・尾野久二(1996a):インターネットが提供するGIS・地理学関連情報,地学雑誌,105-1, 113〜124.
4)村山祐司・尾野久二(1996b):インターネットによる歴史統計GIS, 地理情報システム学会講演論文集,5, 143〜146.
5)村山祐司・尾野久二(1998):インターネットGISの開発−明治期地域統計を事例に−,筑波大学人文地理学研究,22, 99〜128.
6)村山祐司・中村康子(1994):明治期地域統計の地図情報システムの構築―ARC/INFOを利用して―,多目的統計データバンク年報(筑波大学社会工学系),70, 41〜67.
7)村山祐司・中村康子(1995):明治・大正期地域統計の地図情報システム−主題図作成マニュアル−,多目的統計データバンク年報(筑波大学社会工学系),71, 77〜111.
8)Buehler, K. and McKee, L. 編(1997):『The Open GIS Guide ―オープン・ジオデータ相互運用性仕様(OGIS)に関する資料―』国土空間データ基盤推進協議会,143p.
9)OpenGIS Consortium Inc. (1997): Open GIS Simple Features Specifications for CORBA, 92p.
10) Harder, C. (1998): Serving Maps on the Internet — geographic information on the world wide web —, ESRI, 130p.