明治・大正期人口統計地図情報

Population Statistical Map Information(PSMD)


明治・大正期人口統計地図データベース作成研究会

代表幹事  村山祐司
分担者   小野寺淳


内 容


<入力データ項目>

 データベースを作成した明治・大正期の統計は以下の通りである。これらの統計に掲載されている項目はほぼすべてデータベース化したが,徴発物件一覧表の幅員(東西・南北),職工の一部など幾つかの項目は除外している。また,これらの統計には誤植と判断されるデータも少なからず存在する。しかし,データベースとしての性格上,基本的には原本の記載数値のままとし,あえて訂正を加えていない。このため,誤植も認められることから,データベースの利用に際しては数値の吟味が必要である。ただし,たとえば数値の記載覧の誤りなど,訂正を加えられるものは適宜処理した。

1.第4回共武政表(データ:明治13年調)

 入力データ:人口百人以上の輻輳地別

 入力データ:郡区(市)別
 

2.明治24年徴発物件一覧表(データ:明治23年12月31日調)

 入力データ:大字別

 入力データ:郡区(市)別

 入力データ:町村(区)別

 

3.明治34年徴発物件一覧表(データ:明治33年12月調)

 入力データ:町村(区)別

 入力データ:記載の有無により,有りは1,無しは数値未記入

 入力データ:郡区(市)別

4.明治40年徴発物件一覧表(データ:明治39年12月調)

 入力データ:町村(区)別

  入力データ:記載の有無により,有りは1,無しは数値未記入

 入力データ:郡区(市)別

 

5.大正9年国勢調査(データ:大正9年10月1日調)

 入力データ:世帯及び人口

<統計資料と項目>

1.共武政表

 共武政表は,陸軍省参謀本部が徴発用台帳として編纂した軍事統計である。第1回は1875年(明治8)に発行された。第1回は人口千人以上の郡別邑里の戸口,物産を主とする書き上げであり,水車,車輌,船舶などの項はなかった。1878年(明治11)に陸軍省参謀局から参謀本部となり,「凡ソ軍事ニ供スヘキ者ハ悉皆記載ス」として,第2回の共武政表が刊行された。第2回の共武政表は1879年のデータではあるが,翌年1月に訂正補遺がなされている。1880年には第3回,翌々年には第4回の共武政表が刊行され,その様式も統一された。共武政表は第5回まで刊行されたようであるが,梅村又次ほか(1983)によれば第5回は刊行されたか否かの情報がないという。そこで,本データベースでは第4回の共武政表を取り上げた。
 共武政表は人口百人以上輻輳地別と郡区(市)別に分けられている。輻輳地とは,郡内の人口百人以上が集住する集落を意味する。このため,北海道など,人口百人以上の集落がない郡では,輻輳地別のデータが記載されていない。また,北海道札幌郡や宮城県柴田郡のように,合計すると輻輳地別人口の方が郡別人口より多くなる郡もみられる。一方で,富山県礪波郡のように,郡別の数値が記載されていない例もある。この点で,本データベースの利用には,同年次の日本全国人口表,前年度の共武政表などを参照する必要があろう。

2.徴発物件一覧表 

 「徴発物件一覧表」は,1882年(明治15)の徴兵令ならびに徴発事務条例制定にともない,共武政表の名を改め,「徴発物件表」・「徴発物件概覧表」・「平均物価表」を収録した軍事統計として,1884年(明治17)より1891年(明治24)までは毎年刊行された。刊行年次の前年分のデータを収録し,とりわけ明治24年には23年の詳細な統計が刊行されたが,以後28年・32年の未発行を除き,隔年ごとに1907年(明治40)まで刊行が続いた。その後,徴発物件一覧表は「陸軍徴発物件表要覧」と名を改められ,徴発物件一覧表より「其ノ要項を摘録シテ通覧ニ便スルモノトス」と凡例に記されたように,概要であるが,1901年(明治34)から隔年ごとに1911年(明治44)まで刊行された。そこで,本データベースでは,最も詳細な明治24年刊行に加え,10年後の34年刊行,概要以前の最終年である40年刊行分を取り上げた。
 徴発物件一覧表に掲載されている項目の解説は,梅村又次ほか(1983)に記されている。ここでは,共武政表と異なる項目を中心に若干の説明を加える。徴発物件一覧表の戸口は,明治23年分から戸籍調査の現在戸数から家屋軒数に変更され,33年11月の改正で再び現在戸数へと変更された。職業別人口は,本業者のみとされ,見習者を含めないが,舟夫のみは兵士を除いた船舶(艀漁小廻を含む)の操船者をすべて含めた。官廨は役所の意味であり,徴発物件一覧表では府県郡等の役所に加え,郵便局,警察署,裁判所,電信分局等,民家を使用するものまで含めるとされている。病院は,明治30年の改正によって,伝染病院及隔離病舎を朱書きで併記することとなり,本データベースにおいても明治34・40年には項目として取り上げている。船舶は,日本形50石以上・艀漁小廻に区分し,また各欄に「西」と併記して,西洋形帆船20トン以上・未満の数値が記されている。艀漁小廻とは日本形50石未満の航行用と,倉庫船,水田耕作用船,水災予備用船,漁船を含む。明治33年の改正により,西洋形帆船5トン以上・日本形50石以上・小船のほか,漁船は朱書きで欄外に併記されるようになった。小船には西洋形帆船5トン未満と日本形50石未満,ならびにその他の航行用と漁船を除く非航行用の小船が含まれる。

3.国勢調査

 1896年(明治29)に国際統計協会が1900年を期して各国一斉の人口センサス施行を決議したのを受け,日本でも1902年(明治35)「国勢調査ニ関スル法律」が制定された。しかし,日露戦争の勃発により延期され,第1回国勢調査は1920年(大正9)10月1日を期して実施された。この調査では,全人口の世帯,性別,出生年月日,配偶関係のほか,職業,出生地,国籍民籍が併せて調査され,1929年(昭和4)に公表が完了した。その後,5年ごとに実施されたが,1925年(大正14),1935年(昭和10)は人口関係のみの簡易調査であった。第二次世界大戦により1945年(昭和20)は実施されず,1947年に実施され,1950年から10年ごとに大規模調査,その間の5年ごとにやや規模の小さな調査が実施されている。

 第二次世界大戦以前の国勢調査としては,1930年(昭和5)の第3回国勢調査が最も詳細であるが,本データベースにおいてはまず第1回国勢調査分のデータベースを作成することとした。

<GISによる近代統計地図の試作>

 上記のデータベースをもとに,GIS(Geographical Information System)によって近代統計地図140点を試作した。この内訳は以下の通りである。

明治13年分第4回共武政表14点
明治24年刊行徴発物件一覧表58点
明治34年刊行徴発物件一覧表34点
明治40年刊行徴発物件一覧表34点

 これらは,おおむね昭和初期の市郡界をベースマップとしている。おおむねと記したのは,データベースが明治13年から大正9年までに及び,またその間に郡の分合改編が進んだため,北海道の道央などは数郡を合わせ,沖縄などの島嶼は割愛するなどの方法をとらざるを得なかったためである。明治・大正期における全国の町村合併を整理することはきわめて困難な作業であり,この点は今後の課題としたい。
 GISのマッピングは,以下の作業によって作成した。

1)各年次の全項目の値を人口1000人対の値に変換した。
2)時系列的な比較を行うために,年次に関わらず,0より大きな値を持つ単位地 区(市郡を編成)を選択した。
3)選択された地区の数が均等になるように,7段階の階級区分を行った。

 この際,明治24年徴発物件一覧表,明治34年徴発物件一覧表,明治40年徴発物件一覧表の各統計データについては,昭和5年国勢調査における「国勢調査速報−世帯及人口」に掲載された市郡別境域(単位地区)に統計データを組み替えた。しかし,第4回共武政表については,明治22年(1889)の市制町村制施行以前であり,行政区画の変更が頻繁であったため,統計データの組み替えを行っていない。

a)共武政表の市郡別データ集計について
 共武政表については,昭和初期の市郡界に,統計を市郡別に集計したデータを合わせた。これは暫定的な処理であり,図を判読する上で注意を要する。また,市郡別の人口については明治13年1月と14年1月調べの日本全国人口表と対照し,共武政表の誤植と判断したものは,日本全国人口表の数値と対照して換算した推定値に置き換えた市郡もある。
 さらに,東京市を囲む各郡は東京市区部のデータが重複しているため,郡区(市)別のデータでは東京市の値が0であるが,東京市に隣接する郡の値に東京市の値が含まれている。船舶については日本形(100石以上・未満),西洋形(50馬力以上・未満),(西洋形)帆船(100トン以上・未満)に区分されているが,船腹量の大小を合わせて日本形と西洋形の二つに区分した。

b)徴発物件一覧表の市郡別データ集計について
 徴発物件一覧表については,昭和5年の市郡界に,統計の数値を修正して集計した。この点が,共武政表の市郡別データとは異なる。
 また,通時的変化を追うために,詳細な明治24年刊行のデータを適宜合算し,34年・40年刊行の徴発物件一覧表の項目に合わせた。まず,馬車と荷馬車は,馬車一頭曳+馬車二頭曳=乗用馬車,荷馬車一頭曳+荷馬車二頭曳=荷馬車とした。
乗馬,駕馬,駄馬,耕馬はそれぞれ合格,不合格,牡,牝に区分されているが,これらの区分を合計し,乗馬,駕馬,駄馬,耕馬とした。西洋形船舶は,20トン以上と未満を合算して一つとした。

<参考文献>

梅村又次・高松信清・伊藤 繁(1983):『長期経済統計13 地域経済統計』。東洋経済新報社,389。
黒崎千晴(1979):明治前期水運の諸問題。運輸経済研究センター近代日本輸送史研究会編
 『近代日本輸送史−論考・年表・統計−』。成山堂,pp.150-168。
黒崎千晴(1979):明治前期の内陸水運。新保・安場編『近代移行期の日本経済』。
 日本経済新聞社,pp.87-102。
黒崎千晴・小口千明(1991):『地図でみる県の移り変り−解説資料篇−』。昭和礼文社。
佐々木清治(1975):明治前期における地方行政区画の変遷。歴史地理学紀要17,113-140。
参謀本部編(1978):『共武政表(明治12年)』上。柳原書店(復刻版),630。
参謀本部編(1978):『共武政表(明治12年)』下。柳原書店(復刻版),634。
内務省編・速水 融監修解題(1992):『国勢調査以前日本人口統計集成 1』。
 東洋書林(復刻版)。
中澤 保(1985):徴発物件一覧表解題。洞 富夫監修『マイクロフィルム版 徴発物件 一覧表 目録・解題』。
 雄松堂フィルム出版, pp.3-6
山口和雄(1956):『明治前期経済の分析』。東京大学出版会,pp.113-216。

<謝 辞>

 データベースの作成にあたり,筑波大学歴史・人類学系歴史地理学研究室所蔵の「共武政表」「徴発物件一覧表」を借用させていただきました。八千代国際大学教授黒崎千晴先生,筑波大学教授石井英也先生,助教授小口千明先生に厚く御礼申し上げます。
 GISによるマッピングには,筑波大学大学院地球科学研究科の平井 誠氏が担当され,データ入力にあたっては,池上喜恵子,松本アユ子,平井 誠,中村匡輝,神坂卓志,福井朋美の各氏のご尽力によるものである。以上,記して謝意を申し上げます。