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研究目的・意義等
 研究背景
 研究目的・目標
 意義および創造性

研究計画・方法
 平成22年度の研究計画・方法
 平成23年度の研究計画・方法
 平成24年度の研究計画・方法
 平成25年度の研究計画・方法




■研究目的・意義等

地理学の基本はフィールドワークにある.人文地理学者は,聞き取り・アンケート・観察・観測など様々な方法を駆使して地域データを集める.この作業は経験や職人芸的な感性(職人技)に負うところが大であり,取得データの分析や処理は試行錯誤的に進められることも多い.専門や調査地を異にする研究者にとって,フィールドワークはいわば「ブラックボックス」と化している.このため,研究の手続きが一人一人の力量に委ねられ,研究者間で調査手法を洗練させる,あるいはデータを共有するといった発想や試みはこれまであまりみられなかった.

この状況を踏まえ,本研究では,人文地理学者が培ってきた豊富なフィールドワークの経験や蓄積にもとづき,暗黙知とされてきたフィールドワークを体系的に整理することにより,方法論の「ホワイトボックス」化に挑みたい.4年間の研究を通じて,研究そのものを遂行するノウハウや研究論文の論旨を組み立てる方法などにも注意を払いつつ,データを系統的に取得・蓄積・管理・分析・可視化・伝達する汎用的方法の構築をめざす.最終的には,研究者間でフィールドワークの技法や手順が共有できる仕組みを確立し,アイデアの交流,データの交換,分析手法の双方向的な活用などを可能にする体制を作りたい.

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研究背景

今日,国内外の人文地理学をはじめ,社会学や人類学などの隣接分野において,フィールドワークの重要性を再認識する動きが高まっている.現実の動きを直視し,演繹的ではなく帰納的思考によってことの本質を見極めようとする考え方が背後に存在する.社会調査士の資格制度を確立した社会学では,盛山(2004)が社会調査の有効性を論じたテキストを出版し,また海外では,Gerber and Chuan(2000)のように,個人の直接的な体験を重視してきた野外観察の方法を幅広く教育分野へ活用しようという動きがみられる.また,日本の人文地理学においても,フィールドワークによるデータ収集方法の体系化を目指し,田林(2003),山下(2003),梶田ほか(2007)によって,地域調査の方法や手順を解説した論文や書籍が公表された.しかし,これらの論考は,時間・空間的な情報を有するデータを統合し,系統的に整理することの意義や重要性を指摘しているものの,必ずしもその具体的な道筋を提示しているわけではない.また,地理空間情報を効率的に扱う技術や手法に関しても概念的な検討にとどまっているのが現状である(村山,2008).森本ほか(2004)や兼子ほか(2005)が試みたフィールドでのデジタル化やWebGISの活用法などは実用化段階に至らず,まだ実際の野外調査には浸透していない(Murayama,2000).

地理空間情報活用推進基本法が施行された今日,地域に関する様々なデータを統合・分析する汎用的な方法を確立することが社会から要請されている.データの相互利用にとどまらず,データ分析法の共有化を可能にするインフラの整備は喫緊の課題に浮上している.

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研究目的・目標

本研究では,フィールドワークに基づく総合的な時空間データベースの試作版を作成し,地域調査の経験や蓄積をもとに,その有用性を検証するとともに,効果的な利用方法の提示をめざす.個々の研究者がフィールドワークで独自に収集してきたデータは,当該研究者にその利用が留まりがちである.膨大な時間と労力を費やし作成された貴重なデータにもかかわらず,他の研究者に再利用されることは少ない.チームを組んで実施する共同研究においても,研究が終了すると個別データは破棄されることが多く,次の研究や他のグループに受け継がれていない.これは,集計や整理の仕方が個別的かつ非系統的であるため,汎用性が低いことに起因する.

このような状況を鑑み,まず,データの規格化から研究をスタートする.フィールドワークで得られたデータに,位置情報(緯度経度,住所,地名など)や時間情報(時点,期間,間隔など)の付与を試みる.このデータベースをプラットフォームとして,フィールドワークデータの管理・分析・可視化・流通に関する実証実験に取り組む.既存データ(衛星画像,地図,DEM,統計など)とリンクする方策も検討する.最終的には,作業の手順,分析・考察の方法,結論への導き方などについても研究者間で共通理解が得られるよう一般化を図る.

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意義および独創性

フィールドワークによって得られたオリジナルなデータを時空間データベースとして体系的に管理し,デジタルアーカイブ化していくことの学術的メリットは計り知れない.当該研究者が行ったデータ解析を他の研究者がいつでも追尾できる環境を構築することによって,データの検証や解釈の妥当性に対する科学的な議論,さらにはデータの精度や品質などをめぐるデータ提供のあり方についても深い論議が可能になるだろう.

2008年4月には地理空間情報活用推進基本計画が閣議決定され,その一環として全国をシームレスに閲覧できるデジタル基盤地図(縮尺2500)の無償提供が開始された.また改正統計法の施行(2007年5月)によって,「統計の目的外使用」が緩和され,国勢調査,事業所・企業統計調査をはじめ官庁統計データが個票レベルで入手できる可能性が出てきた.これらの個票データを,フィールドワークによって得られた個別データと結びつけて基盤地図で管理すれば,小地域レベルの地理空間情報の使い勝手は格段に向上しよう.フィールドで取得した個別データと既存のミクロデータをクロス集計化する,あるいは非集計レベルで現在と過去のデータをマッチング(パネル化)するといった作業がルーティーン化できる.GISを援用して位置と時間を鍵に既存データと組み合わせて新しいデータを作り出すことも容易い.本研究の遂行によって,ミクロデータの収集・管理に関して研究者の意識改革が促され,フィールドワークに関する新たな方法論を創成していくことも望める.

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<参考文献>

兼子 純・村山祐司・森本健弘・久保倫子・丸山美沙子 2005. GIS/GPS を利用した空間認知解析の試み. 人 文地理学研究 29: 1-14.

梶田 真・仁平尊明・加藤政洋編 2007.『地域調査ことはじめ ―あるく・みる・かく―』ナカニシヤ出版.

田林 明 2003. 地理学における農村調査の手順. 田林 明『北陸地方における農業の構造変容』農林統計 協会, 394-410.

森本健弘・村山祐司・近藤浩幸・駒木伸比古 2004. 行動地理学におけるGPS/GIS の有用性 ―野外実習を通 じて―. 人文地理学研究28: 27-47.

盛山和夫 2004.『社会調査法入門』有斐閣ブックス.

村山祐司 2008. 地理空間情報活用推進基本法の人文地理学への影響と期待. 日本地理学会発表要旨集 73: 41.

山下清海 2003. 地域調査法. 村山祐司編『地域研究(シリーズ人文地理学2)』朝倉書店, 53-79.

Gerber, R. and Chuan, G. K. ed. 2000. Fieldwork in geography: reflections, perspectives and actions. Kluwer Academic Publishers, Dordrecht.

Murayama, Y. 2000. Internet GIS for Malaysian population analysis. Science Reports of the Institute of Geoscience 21: 131-146.

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■研究計画・方法

本研究を効果的に推進するには,研究分担者間で問題意識を共有し,絶えず意思の疎通が図れる体制を組むことがなによりも肝要である.この点を考慮し,本研究は日常的に緊密な連携がとれる筑波大学内の研究者でメンバーを編成することにし,総力戦で研究課題に取り組む.ブラックボックスからホワイトボックスへというフィールドワーク方法論のパラダイムシフトを念頭に置き,次の4つの課題を設定して研究を進める.

  (A) データの取得と管理
  (B) データの分析・可視化と解釈
  (C) データベースの構築
  (D) データベースの高度利用,公開と流通

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【平成22年度の研究計画・方法】

(A)「データの取得と管理」の研究を次の3つのグループに分けて推進する.各グループはそれ ぞれ独立して調査を進めるが,絶えず連絡を取りあう.また,地理学に加え隣接分野の研究者を 交えた研究会を定期的に開催する.多様なジャンルのフィールドワーカーから意見を聴取するこ とが大切と考えるからである.研究代表者はこれら研究全体の推進と調整,総括をおこなう.

(1) 先行研究の探索
(グループ長:兼子,担当:手塚・村山・松井)

近代地理学の成立以降,数多くのフィールドワーク研究が行われてきた.本グループは,人文 地理学・地誌学関連の主要雑誌に掲載された学術論文を狩猟し,これまで実施されてきたフィー ルドワークの手法や技法をサーベイし系統的に整理する.調査は日本の学術論文に限らず英語圏 (村山担当)や仏語圏(手塚担当)にも範囲を広げる.

(2) データ収集法の探求
(グループ長:呉羽,担当:田林・山下・仁平)

本グループは,実際にフィールドワークを実施しデータを収集しながら,データの取得方法,データの効率的な整理と管理,データの分析,地図化・可視化の方法などについて検討する.各分担者は長年にわたりフィールドワークを主体にする学術研究に従事してきており,これまでの豊富な経験と蓄積を生かしながらこの課題にチャレンジする.事象を固定する系統地理学と地域を固定する地誌学ではフィールドワークの方法に違いが認められるので,両者の方法論的な差異を意識しながら調査を進める.系統地理学では,農業・農村,都市・交通,観光・文化などに焦点をあてる.一方地誌学では,各分担者がこれまで継続的に行ってきた大都市近郊地域,海外のフィールド(カナダ・ドイツ・中国・ブラジル)をベースに研究を推進する.

(3) 取得データと地図・衛星画像・統計との結合
(グループ長:森本,担当:村山・兼子・趙・Thapa)

このグループは,フィールドデータを含む多種多様なデータを関連づけて表示するプラットホーム(共通基盤整備)作りに取り組む.具体的には,フィールドで取得したデータを既存データ(地図・衛星画像・統計など)と結びつける仕組みを確立する.取得データのデジタル化,ジオコーディング,ラベリング,さらにデータ管理のコンセプトなどについては研究分担者間での合意形成が不可欠なため,上記2グループの同意を取り付けながらデータベースを設計する.

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【平成23年度の研究計画・方法】

引き続き(A)の課題を進めるとともに,平成23 年度は(B)(C)の課題に重点的に取り組む.

(B) データの分析・可視化と解釈
(グループ長:兼子,担当:田林・手塚・山下・呉羽・Waldichuk)

フィールドではどのような手順でデータを収集すべきだろうか.取得したデータはいかに整理・管理し,どう分析を加えていくべきか.結論はどのような思考過程を経て導出されるのか.これらの問いに明確な指針が示せるように,このグループは,自らの経験に加え,従来の研究成果の蓄積やフィールドワーカーからの聞き取りなどを参考にしながら,研究プロセスの一般化を追究する.フィールドワーク主体の調査の進め方や作業の流れを可能な限り系統的に整理することに努める.分野によって作業手順,分析方法,考察の仕方などが異なるので,研究分担者それぞれの専門を生かし,都市地理学(兼子),農業地理学(田林),観光地理学(呉羽),海外地域研究(手塚・Waldichuk),国内地誌研究(山下)に分けてこの課題に取り組む.

分担者が取得したデータは一定の基準でデータベース化して,他の研究者も利用可能なフォーマットに整える.このデータベースを次年度に実施する研究・教育の実践に利用する.同時に,表章単位としての地域区分のあり方について,理論的な検討を行う.地域単位に対するユーザのニーズは多様であり,柔軟な地域区分が望まれる. 他のグループと連携して,GIS を援用した可変的地域単位設定問題(MAUP)にアプローチする.

(C) データベースの構築
(グループ長:仁平,担当:村山・森本・松井)

本グループは,地理空間情報を逐次的に追加できるデータベースを構築し,その円滑な利用を促進する環境を整備する.項目の分類とその定義,小地域のコード化や個別(ミクロ)データに対する時空間情報の付与方法など,データベースの骨格については研究分担者全員のコンセンサスを得ながら詰めていく.時空間データベースのフレームワークを確定させ,ArcGISへの実装化を図る.フィールドワークにより収集したデータはジオコーディングして,GISのデータとして利用できる形態に変換する.

具体的には,聞き取り調査項目のデジタル化,デジタイザ等を活用した地図データの作成,O D・個票データの整理・入力などの作業が発生する.デジタル化および入力作業,管理方法につ いては,研究協力者に技術的な助力を得る.データベースの作成には膨大な作業を要することが 予測されるが,これに関しては短期雇用者を雇って対処する.当年度中にデータ整理が終了しな い場合,次年度も継続的にデータベース化を実施する. 以上の研究を支えるためのハードウェアおよびソフトウェアとして,GISのサイトライセンス (SIS)を導入し,任意の端末室や教室,研究室で地理情報システムを利用できる環境を整備する. さらに,地理空間情報共有サーバを稼働させ,データベースを活用する体制を整える.なお当該 年度は,データベースの利用方法,地域区分に関する概念的,技術的な課題を検討するため,情 報工学に通じた外部講演者を招くセミナーを企画する.

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【平成24年度の研究計画・方法】

(C)「データベースの構築」(D)「データベースの高度利用,公開と流通」のタスクを加え,平 成24 年度は両課題を一体化して研究を進める.とくに,作成したデータベースの研究・教育への 活用実験を重点的に推進する.定点観測,アンケート・聞き取り調査などを継続することによっ て,時系列データの蓄積に努め,時空間データベースの充実を図る.また,平成22年度に作成し た時空間データベースを題材に実証実験を行いながら,フィールドワークデータの高度な分析方 法を探求する.

その際,データベースを研究・教育に応用できる「転移性」と,時系列解析に応用できる「通 時性」を念頭において研究を遂行する.

(1) 学術研究への応用(担当:田林,手塚,呉羽,山下)

研究者や大学院生の間でデータを共有し,実証実験を積み重ねて時空間解析手法の創出にチャ レンジする.また,定性的なデータと定量的なデータをリンクさせる合理的な方法を見いだす方 法も探求する.

(2) GIS 教育への応用(担当:村山,仁平,兼子,松井,森本)

実験実習・野外調査などの授業に活用することを念頭に時空間データベースを用いたGIS 教材 の開発を行う.さらに,GIS データのポータルサイトを立ち上げ,時空間データベースの活用実 験を行うとともに,空間解析を主体とした地理情報科学の教授法を探る.

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【平成25年度の研究計画・方法】

(D)「データベースの高度利用,公開と流通」の課題に重点的に取り組む.研究・教育活動にこれまでの成果を活用するために,Web-GISサービスを立ち上げ,データベースの相互利用を促進する.さらに,作成したデータベースを登録するクリアリングハウスの試作版を作り,実証実験を通じて地理空間データ共有化の仕組みやあり方について検討する.さらに,3年間進めてきたフィールドワークの方法論を体系化して,データを系統的に取得・蓄積・管理・分析・可視化・伝達する汎用的方法を具体的に提示する.

研究の成果については,専用Webページで筑波大学の教職員や学生,学会関係者に公開し,専門家のフィードバックを得ながら本研究のさらなる進展を図る.平成26年3月には,専用Webページを一般に広く開放するとともに,4年間の研究成果を取りまとめて研究成果報告書を作成し,関連する研究機関や人文地理学者および隣接分野の研究者に配布する.


本研究の枠組みと年次計画

本研究の枠組みと年次計画

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