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・2014/1/9 第15回研究会開催,筑波大学

講師:村山 祐司 氏,筑波大学生命環境科学研究科 教授

「地域調査:フィールドワークからフィールドサイエンスへ」
<資料 PDF形式(3.87MB)>

【要旨】

    

地域調査:フィールドワークからフィールドサイエンスへ

村山 祐司(筑波大学生命環境科学研究科)

    

地理学の基本はフィールドワークにある.人文地理学者は,聞き取り・アンケート・観察・観測など様々な方法を駆使して地域データを 集める.この作業は経験や職人芸的な感性(職人技)に負うところが大であり,取得データの分析や処理は試行錯誤的に進められること も多い.専門や調査地を異にする研究者にとって,フィールドワークはいわば「ブラックボックス」と化している.このため,研究の手 続きが一人一人の力量に委ねられ,研究者間で調査手法を洗練させる,あるいはデータを共有するといった発想や試みはこれまであまり みられなかった.この状況を踏まえ,このプロジェクトでは,人文地理学者が培ってきた豊富なフィールドワークの経験や蓄積にもとづ き,暗黙知とされてきたフィールドワークを体系的に整理することにより,方法論の「ホワイトボックス」化に取り組んだ. 本発表では,このプロジェクトで開発したデータ取得システムとキャンパスGISの概要を説明するとともに,霞ヶ浦湖岸地域における地 域性とその形成メカニズムの研究を通して,フィールドサイエンスに向けた取り組みを紹介した.



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・2013/10/10 第14回研究会開催,筑波大学

講師:山下 清海 氏,筑波大学生命環境科学研究科 教授

「華人社会・チャイナタウン研究のフィールドワークから」
<資料 PDF形式(2.27MB)>

【要旨】

    

華人社会・チャイナタウン研究のフィールドワークから

山下 清海(筑波大学生命環境科学研究科)

    

本報告では,私が取り組んできた華人社会・チャイナタウン研究のフィールドワークの経験を通して,日頃考えてきたことを,特に大学院生や若い研究者に伝えることにしたい。 修論で横浜中華街の調査を始め,飛び込んだ店の人に聞き取りを断られたり,台湾派と大陸派の対立に巻き込まれながら挫折しそうになった。しかし,その時のフィールドワークの経験は,大学院の博士後期課程の時にシンガポールに留学し,東南アジアの華人社会・チャイナタウンを調査する際に非常に役に立った。聞き取り調査で得た生の声をフィールドノートに克明に記録し,情報を地図化することを実践した。そうすることで,私の最初の本である『東南アジアのチャイナタウン』(古今書院,1987年)ができ上がった。 その後,世界各地でフィールドワークをし,その中でさまざまな研究のアイディアが浮かんでいった。あるフィールドで感じたことが,これまでの別々の経験を結びつけた。各地のフィールドで播いた種が,一斉に芽を吹くような感じである。サンフランシスコやロサンゼルスで新しいチャイナタウンが形成されているのを見て,池袋駅北口界隈を,いち早く「池袋チャイナタウン」と名付けた。 論文のストーリーは,フィールドワークを通して見えてくるものであり,研究の新しいアイディアもフィールドワークから生まれてくる。優れたフィールドワーカーは,優れた読書家であり,優れたもの書きでもある。 以上が,若い研究者や研究者を目指している院生・学生の皆様に最も伝えたかったことである。



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・2013/5/9 第13回研究会開催,筑波大学

講師:呉羽 正昭 氏,筑波大学生命環境科学研究科 教授

「リゾートでのフィールドワーク−オーストリア・アルプスのスキーリゾート−」
<資料 PDF形式(864KB)>

【要旨】

    

リゾートでのフィールドワーク−オーストリア・アルプスのスキーリゾート−

呉羽 正昭(筑波大学生命環境科学研究科)

    

この報告では、リゾートにおけるフィールドワークの方法とデータ収集の方法について、オーストリア・アルプスにおいて進めつつ ある調査をもとに検討した。事例としたエッツタールのゼルデンは、第二次世界大戦直後からスキーリゾートとして継続的に発展し てきた。今回の報告では、とくに最近20年間における持続的な発展傾向にみられる諸特徴を解明し,予察的な考察を加えた。スキー リゾートは主にスキー場、リゾートタウン、ツーリストという3つの要素から構成されるが、それぞれについて景観観察、土地利用 調査、聞き取り調査、統計資料(現地のみで入手可能な統計を含む)収集を実施した。その結果、スキー場の拡大、宿泊施設の質的 変化、中心部におけるスポーツ店の増加、東ヨーロッパ諸国からの新規顧客の増加といった特徴が明らかになった。  オーストリアのスキーリゾートでのフィールドワークは、調査環境という点では、ベースマップ、宿泊施設のさまざまな情報が盛 り込まれたパンフレットをはじめとする豊富な資料があり、フィールドワークは実施しやすい。また,整備された統計資料、さらに 既存のマーケット調査等がある場合には、リゾートの性格をある程度まで正確に把握することが可能である。一方で、リゾート特有 の特性としてその季節性があり、それゆえに調査時期(繁忙期と閑散期)を慎重に検討することが必要であろう。外国でのフィール ドワークであるがゆえに、調査手法としては土地利用調査や景観観察、また観光者の行動パターンを観察することが中心とならざる を得ない。その際、観察眼の重要性が問われる。例えば、リゾートにおける滞在者の属性や行動パターンを理解し、その特徴がいか に土地利用や景観に現れているのかを把握することが重要である。例えば、長期滞在型とサイトシーイング型という観光行動の違い にみられる意味を考えなければならない。オーストリアでは、安全・安心という面では全く問題なくフィールドワークを実践できる 。それゆえ、学生向けの授業科目としての野外実験(実習)のフィールドとしても最適であろう。



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・2013/2/21 第12回研究会開催,筑波大学

講師:松井 圭介 氏,筑波大学生命環境科学研究科 准教授

「精神としてのフィールドワーク−筑波大学人文地理学・地誌学教室の実践−」
<資料 PDF形式(1.90MB)>

【要旨】

    

精神としてのフィールドワーク−筑波大学人文地理学・地誌学教室の実践−

松井 圭介(筑波大学生命環境科学研究科)

    

人文地理学におけるフィールドワー クの重要性は論をまたないが,大学院のカリキュラムにおいてフィールドワークを正規の科目 として設置している大学は僅少である。本発表で は,前身校時代よりフィールドワークを大学院の正課教育として取り入れ,地域 調査を学風としてきた筑波大学の人文地理学・地誌学教室を事 例として,1)大塚地理学とフィールドワーク教育への関心、2)フ ィールドワーク教育の実践、3)フィールドワーク教育の課題と将来、に ついて検討することを目的とする。   東京高師・文理大・教育大と受け継がれてきた大塚地理学の特徴は、地誌学と臨地研究に基づく実証主義的な地理学を学風とする ものであっ た。例えば、「大塚の学風は一つは或る地域を定めて一週間合宿滞在の上、学生各自にテーマをもたせて臨地研究を行 うことである」(『東京 文理科大学閉学記念誌』1955)や「野外観察の仕方は大塚学派の伝統であり、今後もこのよき伝統を継承 して行かねばならない」(市川 1977)などの言説にみられるように、自然地理、人文地理を問わず、臨地研究は「大塚スクール」 の学統であったといえる。   この学統は、筑波大学人文地理学・地誌学研究室において、発展的に継承がなされ強化されていった。野外実験の成果は、『沿岸 集落の生態』(二宮書店1976)の上梓を皮切りにして、『霞ヶ浦地域研究報告』(1979〜)、『地域調査報告』(1983年〜)、『 地域研究 年報』(2005年〜)、さらには数多くの学術図書の形で公刊がなされた。そこで重視された手法が土地利用と景観であっ た。地域生態論の 立場から人々が環境資源を活用し、土地利用を改変しながら生活を営んできた実態を描き出し、そこにおける地 域内諸事象の相互連関を重層的 な空間スケールから見出す試みが探求された。  筑波大学人文地理学・地誌学研究室は多くの地理学者を輩出してきたが、その根底にはこのフィールドワーク教育があるものと考える。一方 で、大学院教育をめぐる環境の変化にともない、フィールドワーク教育も過渡期を迎えつつある。大学院進学者の目的意識の変化、キャリアデ ザインの多様化、地理学未修者の増加、留学生への対応、新しいツールを活用した地域調査法の導入など、課題もまた少なくない。野外実験の もつ教育機能、研究者養成機能、学統の継承といった意義を認めつつ、新たなる巡検スタイルを構築する時機であるといえよう。



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・2013/1/24 第11回研究会開催,筑波大学

講師:森本 健弘 氏,筑波大学生命環境科学研究科 講師

「フィールドワークにおけるクラウドGISの活用−スマホ・タブレットでのデータ収集と共有−」
<資料 PDF形式(2.55MB)>

【要旨】

    

フィールドワークにおけるクラウドGISの活用−スマホ・タブレットでのデータ収集と共有−

森本 健弘(筑波大学生命環境科学研究科)

    

いわゆるスマートフォンやタブレットPC(以下ではスマート端末と記す)を端末とするクラウドGISを構築して, フィールドワークでのデータ収集を効率的,対話的,共同的に行うことを試みた.クラウドGISの要素,使い方, および実際にいくつかの授業等で用いた成果を紹介し,その効果,可能性,および課題を検討した.このシステ ムでは複数の調査者が,容易に操作できる端末を用いて,一つの空間データを同時に編集し,調査経過を共有で きる.広範囲に多くの人が参加する調査においてすばやいGISデータ構築を可能にすることが興味深い.構築され たGISデータをシェープファイル形式で蓄積・取り出しできるので,データの活用がしやすい.こうしたクラウド GISの利用法は,フィールド調査プロジェクトを協同的にすすめる基盤として有用性をもつといえる. さらに教 育的側面でも有用性がある.調査者は自分の分担範囲だけでなく調査範囲全体の状況をみてとり,全体の空間的 パターンや,全体の中での分担範囲の特色を考えることができる.すなわちクラウドGISの利用は,調査者の空間 的思考や自発的な問題解決を促進する可能性がある.教師側にとっては調査の進行状況および地図作成状況を把 握でき,問題のある場合にはすぐに助言・指導の対応をとれる点で有用である.



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・2012/12/06 第10回研究会開催,筑波大学

講師:田林 明 氏,筑波大学生命環境科系 教授

「農業・農村地理学の調査・研究手順−黒部川扇状地からの発想−」
<資料 PDF形式(6.46MB)>

【要旨】

    

農業・農村地理学の調査・研究手順−黒部川扇状地からの発想−

田林 明(筑波大学生命環境系)

    

この報告では、農業・農村の地域調査の方法とデータの収集の仕方について、富山県黒部川扇状地において 1970年代に実施した報告者の農村変貌の調査を中心に検討した。事例とした入善町浦山新地区では、1964年 から1970年にかけて圃場整備事業が実施され、農村は大きく変貌した。それを的確に捉えるために、主とし て農村景観と就業構造に着目した。土地区画の整備・拡大、農業用水路や農道の改善、耕地の集団化が進み 、それによって農業機械が導入され水稲作は省力化された。しかし、チューリップ球根栽培や酪農を中止す る農家が多く、農業部門は水稲作に限定されるようになった。そして、世帯主やその妻まで、扇状地内外の 企業や役所・団体に向上的に勤務するようになった。地域調査の際に最も重要なことは、地域の現象の基本 的方向性についての的確なイメージをつかむことであり、そのためにはキーパーソンに対する時間をかけた 丁寧な聞き取りが不可欠である。キーパーソンを見つけること、その人から有効な情報を引き出すことが、 地域調査成功の鍵となる。さらに、得られた地域イメージを実証するために、聞き取りやアンケート調査、 観察、既存の地図や統計、資料、文献を集めることが必要となる。  さらに、この1970年代の黒部川扇状地の研究が、その後の報告者の研究にいかに結びつき、展開していっ たかを整理した。すなわち、1980年代以降の黒部川扇状地農村のさらなる変貌の追跡や、日本の農村空間区 分の研究、水稲作やチューリップ球根、自立経営農家の研究、黒部川扇状地や日本の地域構造の検討、持続 的農村や農業の担い手の検討、さらには最近の農村空間の商品化や日本の地誌の研究につながっていった。 1つの地域を丁寧に継続的見ること、あるいはそのようなフィールドをもっていることは、農業・農村地理 学を長年にわたって続け、多面的に展開していくために重要なことである。



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・2012/10/25 第9回研究会開催,筑波大学

講師:山下 亜紀郎 氏,筑波大学生命環境科学研究科 助教

「アマゾンの日系農場でのフィールドワーク」
<資料 PDF形式(943KB)>

【要旨】

    

アマゾンの日系農場でのフィールドワーク

山下亜紀郎(筑波大学生命環境科学研究科)

    

本発表では,ブラジル・アマゾンの日系農場にて実施したフィールドワークについて紹介する.調査地としたのは,アマゾン川中流域, アマゾナス州とパラ州の州境に近いマウエスである.アマゾナス州の州都マナウスからは,ハンモック船に揺られて約18時間のところにある (帰りはアマゾン川を遡上するので24時間かかる).そのマウエスの郊外にある日系人が経営する農場(主に肉牛の牧畜)を対象に, 農場全体の土地利用図および母屋周辺の施設配置図を作成した.ベースマップとしたのは,日本の陸域観測衛星だいち(ALOS)が撮影した画像であり, 森林と農地(放牧地および畑地)の境界は概ね判読できる.農場全体の現地踏査では,GPSとコンパスを携帯し,農地の角や牧柵の縁, 独立樹のような点状特徴物のところなどでウェイポイントを取得し,その周囲のどの方角に何があるのかをノートに記録していった. その結果と衛星画像とを照らし合わせながら,土地利用図を作成した.母屋周辺の現地踏査では,各建物の角や牧柵の角・端・木戸のある位置, 電柱等の点状特徴物のところで,GPSのウェイポイントを取得しながら,手書きで大体の平面図を描いていった. そして,GIS上でGPSのウェイポイントを表示し,手書きの平面図を参照しながら,施設配置図を作成した.



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・2012/09/20 第8回研究会開催,筑波大学

講師:兼子 純 氏,筑波大学生命環境科学研究科 助教

「流通業における聞き取り調査 〜その研究倫理とマナー〜」
<資料 PDF形式(943KB)>

【要旨】

流通業における聞き取り調査
〜その研究倫理とマナー〜
兼子 純(筑波大学生命環境科学研究科)

フィールドワークへの関心・注目が高まる中で,本発表は流通業に対する発表者による経験を紹介し,聞き取り調査でのマナー及びフィールドワークにおける研 究倫理の視点を考える。フィールドワークに関する先行研究や図書は,佐藤(1992)の研究に代表されるように多数の蓄積があり,方法論や概念については 一定の体系化がなされている。これらの先行研究は,聞き取り調査の前のハウツー本としてではなく,調査者が自らの立ち位置や調査手法の確認をする際に有 効である。調査者とインフォーマントとの関係を維持するには,共通認識や共感を得ること,使用する言語や用語の理解,スケジュールの一致が重要である。発 表者のチェーンストアに対する調査経験(兼子 2000)から,聞き取り調査前後の注意点を紹介した。聞き取り時のマナーとして,調査中の柔軟な対応が重要で あるとともに,フィールドワークにおける過度の体系化やマニュアル化を批判し,研究倫理の導入が必要とされている事例を紹介した。



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・2012/02/16 第7回研究会開催,筑波大学

講師:蒋 湧 氏,愛知大学地域政策学部 教授

「分散型地理データベースの構築とその運用―愛知大学三遠南信地域連携センターを事例として」
<資料 PDF形式(6.07MB)>

【要旨】

分散型地理データベースの構築とその運用
―愛知大学三遠南信地域連携センターを事例として
蒋 湧(愛知大学地域政策学部)

演者は,2006年より愛知大学三遠南信地域連携センターに所属し,地域連携事業におけるGISの構築・運用について研究している.GISを含む同センターの情報基盤システムの役割は,研究支援,地域連携支援,GIS教育支援に大別できる.このうち,本講演では研究支援に焦点を当て,データ自体とデータ共有の概念,基礎データ・空間モデリング・GISコンテンツという各階層の情報の構築の事例,およびGISサービスの利用事例について説明した.

研究支援の側面からみたデータベース構築の主たる課題は,データ収集・処理に膨大な時間と労力を費やす点,研究者ごとに規格が異なるため時空間的なデータ共有ができない点であった.

以上の点に対応するため,統計などの既存の基礎データの収集に際しては,共通の指標体系として日本地誌学の分類法を用いた.一方,新たな基礎データの作成に際しては,非集計データに焦点をあて,個票データを開発の中心に据えた.空間データモデルの設計と実装の段階においては,データスキーマの統一に加え,空間データと非空間データを分離し,多種多様なデータの間に柔軟な対応関係をもたせた.また,属性情報と表現情報の分離を行い,視覚化においても柔軟性をもたせた.こうしたデータ作成においては,公に配布されている各種のツールを活用することで設計・実装・書類作成の自動化を試みた.

さらに,これらのデータベースをArcGIS Serverを利用しGISサービスを公開することで,GISコンテンツを容易に共有・利用できる環境を構築した.

このように,分散型地理データベースの構築・運用においては,(1)学問体系整理のための共通の指標体系の検討,(2)データ構造・格納場所を共通化するためのデータスキーマと空間モデルの統一,(3)共有データの加工のためのユーザインターフェースの共通化,(4)GISコンテンツ流通環境整備としてGISサービス環境の確立を行うことが重要である.今後は,開発者側のシステム的視点によるデータベース構築,一般研究者側のシステムを活用した研究手法,運用・管理者側の産学連携によるデータベースの持続可能性向上が求められる.



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・2012/01/27 第6回研究会開催,筑波大学

講師:仁平尊明 氏,北海道大学文学研究科 准教授

「ブラジルの熱帯湿原におけるフィールドワーク」
<資料 PDF形式(2.56MB)>

【要旨】

ブラジルの熱帯湿原におけるフィールドワーク
仁平 尊明(北海道大学文学研究科)

本発表では、海外におけるフィールドワークの体系化を目指す研究の一端として、私が携わってきたブラジル・パンタナールの研究を事例として、熱帯湿原におけるフィールドワークの方法と課題を検討した。その内容は、(1)日本での資料収集と準備、(2)ブラジルの都市部における資料収集、(3)現地(熱帯湿原)でのフィールドワーク、(4)フィールドワークの安全対策とした。

(1)日本での資料集では、インターネットにより、ブラジル地理統計院などの政府機関から地図や統計資料を入手したり、ブラジルの主要学術雑誌を閲覧したりする。また、宿泊場所の手配や語学の習得などの準備も必要である。(2)ブラジルの都市部では、政府機関や大学などを訪問して地形図や資料などを購入する。さらに宿泊場所で使う物品も速やかに入手する必要がある。(3)現地での主なフィールドワークは、景観観察、土地利用調査、畜産調査、聞き取り調査である。景観観察ではカメラとビデオによる撮影のほか、聞き取り調査による捕捉が必要である。土地利用調査では、大縮尺の地図はGPSとGISによって作成し、場合によっては空中写真を参照する。大規模な農場や流域の地図を作成するためには衛星写真も活用する。畜産調査では、GPSとバイトカウンター首輪により、放牧牛の移動経路と採食量が計測できる。聞き取り調査では、調査票とICレコーダーを使用して、農場主や従業員へ様々な質問をする。これら土地利用・畜産・聞き取り調査の結果は、農場経営のあり方を提案する研究成果に結びついた。(4)安全対策では、私の経験により、現地と都市部における危機管理の例を紹介した。

以上は農業地理学とアメリカ地誌を専門とする私のフィールドワークであるが、今後、他地域や他分野の方法が公表されることにより、フィールドワークに関わる研究の充実が望まれる。また、経済発展の著しいブラジルにおいては、フィールドワークに必要な予算が高まっており、共同研究や移動・滞在の課題となっている。



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・2011/06/28 第5回研究会開催,筑波大学

講師:野中健一 氏,立教大学文学部 教授

「ラオス農村における住み込み型協働調査とフィールドワークの安心安全構築」
<資料 PDF形式(7.52MB)>

【要旨】

ラオス農村における住み込み型協働調査とフィールドワークの安心安全構築
野中 健一(立教大学文学部)

演者はラオスにおいて「水を軸とした環境と人間活動」というテーマのもとに、2005年から2007年にかけて一つの農村を選択して、長期滞在型のグループ調査を行ってきた。今回は、海外調査におけるフィールドへの入り方や調査における留意点、調査の現地への還元方法、そして、フィールドワークを行う上でのリスクマネジメントなどについての報告であった。

ラオスは社会主義国であるため、現地調査は行政機関の許可なしで行うことができない。そのため、調査の内容に即してラオス国立農林業研究所と協定を結び、調査許可便宜や資料の持ち出し申請、アシスタントの依頼等の手続き、そして、地元の大学との連携を図った後にフィールドへと入ることができた。実際の現地調査では、研究者が誰に聞き取りや参与観察を行うのかを決めるのではなく、村長を中心とした村の実行組織に調査目的を説明した上で紹介してもらう。このことにより、コンフリクトを生まないようにしてきた。調査において常に忘れてはならないのは、現地住民に対していのリスペクトである。調査後の現地への還元については、学術論文はもちろんのこと、現地の人に図鑑や写真集を配布したり、説明会や感謝祭を催したり、村の博物館を設置するといった成果の還元や交流事業を行った。

フィールドワークの安心安全の構築は急務の課題であるが、一方で大学・大学院におけるリスクマネジメントの意識は低い。演者は積極的なフィールドワークのガイドブック作製やスマートフォンによる緊急通報システムの活用などの動きが重要であると説いた。



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・2011/02/23 第4回研究会開催,筑波大学

講師:池谷和信,国立民族学博物館 教授

「地球をフィールドワークする―ブタの放牧から考える―」

【要旨】

地球をフィールドワークする −ブタの遊牧から考える−
池谷 和信(国立民族学博物館)

地理学は自然とヒトのつながり方をテーマとしており、地球を捉えるために生まれた学問である。地理学最大の魅力はフィールドワークである。緻密なフィールドワークによって、定説を覆すことがある。分かっていることを確認するための作業はフィールドワークではない。演者は、これまで存在が知られていなかったブタの遊牧がバングラデシュに現存していることを突き止め、5年間に渡って研究を続けてきた。バングラデシュにはブタの遊牧に関する統計すら作成されていなかったが、ブタの遊牧に関して、イスラム教徒とヒンドゥー教徒との関係、ブタ飼い(牧夫)同士の社会関係、ブタ飼いの放牧の範囲とテリトリー、牧夫による種ブタとの関わり方、掛け声を含むブタの飼い方、ブタの餌を確保する方法、野生サトイモの存在の重要性、エサ場(コモンズ)の利用方法、年間の移動ルート、ブタの泳続距離など、バングラデシュでブタの遊牧が成り立つ理由とそのメカニズムを解明した。動物を操る技術は、人間の文明(農耕と牧畜)の一つであり、解明する意味は大きい。今後は、以下の3点の課題に取り組む。@舎飼い、放し飼い、遊牧の3つのブタ飼い方と地域的差異を、文化と民族移動を重ね合わせることによって重層的に解明すること。A肥育するブタ飼いと牧夫など、ブタを介したネットワークを面的に把握すること。B世界中のどこの地域でブタの遊牧が行われているかを把握することである。

あるテーマで現地に入ったとき、そこで面白いと感じるものにはいくつかの種類がある。面白いと感じたものが学会で求められるテーマかどうかを見極めることは、自分のプロフェッショナル科学が何かを意識した上での自己点検である。既存の研究を踏まえた上で、現地で見つけた面白いテーマをフィールドワークによって解明することが、地理学の醍醐味ではないだろうか。その際、先行研究の中に自身の研究をマクロに位置づけることが重要である。




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・2011/01/24 第3回研究会開催,筑波大学

講師:横山 智,名古屋大学大学院環境学研究科 准教授

「東南アジア大陸部の統計未整備地域におけるフィールドワーク調査」<資料 PDF形式(2.15MB)>

【要旨】

東南アジア大陸部の統計未整備地域におけるフィールドワーク調査
横山 智(名古屋大学大学院環境学研究科)

博士論文で対象とした統計・地図未整備地域におけるフィールドワークの事例と、異分野の研究者との共同研究を通して意識した人文地理学の特徴と可能性について報告した。

ラオスは、国が管理する公式な統計が不正確であり、大縮尺の地図も作製していない。この問題を克服するため、統計に関しては悉皆調査を行い、地図に関しては歩測による測量およびGPS機を用いた観測によってベースマップを作製した。ベースマップから様々な主題図を描くことができ、主題図の作製および解釈を通してスケール概念の重要性に気が付いた。

就職後は異分野の研究者と共同研究を行う機会が増え、人文地理学の特徴と可能性を意識するきっかけとなった。人文地理学の長所は、地域を機能地域ととらえて地域間ネットワークを解明することができる点、地図によって説得力のある説明ができる点、総合的な見方ができる点、地域の現象を空間スケールでとらえることができる点である。一方で短所は、現状の記述に終始しがちである点、研究成果を地域に還元する視点が弱い点、地域研究の拠点機関に地理学者がおらず地理学の研究成果が参照されにくい点である。

地理学特有の総合的な見方は、近年の分野の細分化によって失われつつある。地理学のユニークさを維持するためにも、自然地理を含めた幅広い知識を身につけ、よりエリア・スペシフィックな見方ができるようになる必要がある。また、ファクト・ファインディングで終わらず、現状の記述を理論的に説明する必要がある。こうした努力の積み重ねが、さらなる地理学の強みに結びつくのではないだろうか。




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・2010/10/28 第2回研究会開催,筑波大学

講師:堤 純,愛媛大学法文学部 准教授

「外国でのフィールドワークにおけるIT利活用の事例」<資料 PDF形式(2.49MB)>

【要旨】

外国でのフィールドワークにおけるIT利活用の事例
堤 純(愛媛大学法文学部)

発表者は,オーストラリアのメルボルンとシドニーにおいて海外フィールドワークを2002年以降に毎年行っている。オーストラリア調査の直接の契機は2002年に科学研究費を獲得したことであるが,それ以降も,文部科学省の海外派遣プログラムや学内の在外研究プロジェクト,さらにはオーストラリア現地の研究助成などを活用して,機会を見つけては頻繁に渡豪していることを紹介した。ただ機会を待つのではなく,様々なプロジェクトに積極的に応募することの必要性についても紹介した。

現地で最も重視していることは,インターネット環境の確保である。現地で入手可能なプリペイドのワイヤレス接続モデムを購入し,研究資料収集のほか現地の生活情報の入手,日本のニュース閲覧等に使うのみならず,現地の研究者や訪問予定先との頻繁な連絡(とくにメール)に活用していることを紹介した。さらに,現地の携帯電話も活用して,調査対象者とは滞在期間中にできるだけ頻繁に連絡を取り合える環境を作ることの重要性を説明した。

また,現地での滞在先選定に際しての工夫も紹介した。外国調査は短くても1週間,長ければ1か月以上同じ場所に滞在することもあるため,狭く,薄暗いホテルの1室では集中力の持続が困難である。そこで,外国調査時の宿舎には,できるだけキッチン・家具付きのアパートタイプを借りて,いわば「研究のベースキャンプ」作りに努めることで作業効率が向上することを紹介した。



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・2010/08/16 第1回研究会開催
 本年度の研究計画に関する打ち合わせ