V 明治統計インターネットGIS
明治・大正期の地域統計は,所蔵機関が限られるうえ,複写自体が制限されていることが少なくない.さらに厄介なことには,この時期は市町村合併が頻繁に行われたため,年次間で統計区(単位地域)が一致しない統計が多い(村山,1996).統計区の地図が添付されている統計書は数えるほどしかない.通時的な比較をしようとすると,大変な作業になる(村山,1997).したがって,この時期の地理情報をデータベース化および地図化しておくことは研究の効率化に寄与する(村山・中村,1994:村山・中村,1995).
こうした現状をふまえ,ここでは,一般ユーザ(クライアント)が明治・大正期の地域統計データと行政界地図データに手軽にアクセスして,インターアクティブに主題図を作成したり計量分析できる自由度の高い統計地図情報システムを構築する.
本研究で利用するデータは,第4回共武政表(データ:明治13年調),明治24年徴発物件一覧表(データ:明治23年12月31日調),明治34年徴発物件一覧表(データ:明治33年12月調),明治40年徴発物件一覧表(データ:明治39年12月調)である.これらの統計は,文部省科研費研究成果促進費(データベース)「明治・大正期人口統計地図情報」の成果としてデータベース化されているので,本システムの構築においてはこれを利用する3).このデータベースには以下の項目が含まれている.
1) 第4回共武政表(データ:明治13年調)
入力データ:人口百人以上の輻輳地別
戸数,人口(男・女),官廨,寺院,学校,屠場,水車,牛(牡・牝),馬(牡・牝),車輌(人力車・荷車・牛車・馬車),日本形船舶(100石以上・未満),西洋形汽船(50馬力以上・未満),西洋形帆船(100トン以上・未満)
入力データ:郡区(市)別
戸数,人口(男・女),牛,産牛,馬,産馬,車両,船舶,郵便局
2) 明治24年徴発物件一覧表(データ:明治23年12月31日調)
入力データ:大字別
家屋(戸数,総坪数・宿舎用坪数),人口(男・女),人夫,官廨,倉庫(棟数・坪数),厩(棟数・繋留馬数),寺院(軒数・総坪数・宿舎用坪数),学校(軒数・坪数),製造所(棟数・坪数),水車場,病院(軒数・患者用坪数),日本形船舶(50石以上・艀漁小廻),西洋形船舶(20トン以上・未満)
入力データ:郡区(市)別
医師,獣医,蹄鉄工,大工,船大工,石工,鍛工,車工,桶工, 杣(そま)職,木挽職,鞍工,縫工
入力データ:町村(区)別
牛,馬匹{乗馬<合格(牡・牝)・不合格(牡・牝)>},駕馬{<合格(牡・牝)・不合格(牡・牝)>},駄馬{<合格(牡・牝)・不合格(牡・牝)>},耕馬{<合格(牡・牝)・不合格(牡・牝)>}),車輌<馬車(一頭曳・二頭曳),荷馬車(一頭曳・二頭曳)>,人力車,荷車,牛車,馬車並駄馬厩具(馬車曳具・駄鞍厩具共),玄米,大麦,小麦,裸麦,塩,味噌,醤油,漬物,梅干,秣蒭(まぐさ),藁
3) 明治34年徴発物件一覧表(データ:明治33年12月調)
入力データ:町村(区)別
現住戸数,現住人口,医師,薬剤師,看護員,看護婦,獣医,蹄鉄工・大工・船大工・鍛冶職,車製造職,舟夫,病院(軒数),伝染病院,学校(軒数),神社(軒数),寺院(軒数),水車場,日本形船(50石以上・小船・漁用船),西洋形帆船(5トン以上)
入力データ:記載の有無により,有りは1,無しは数値未記入
郡役所,郵便電信局,郵便局,金庫,警察署,警察分署,その他
入力データ:郡区(市)別
乗用馬車,荷馬車,牛車,荷車,人力車,橇,牛,米,大麦,小麦,裸麦,もろこし
4) 明治40年徴発物件一覧表(データ:明治39年12月調)
入力データ:町村(区)別
現住戸数,現住人口,医師,薬剤師,看護員,看護婦,獣医,蹄鉄工・大工・船大工・鍛冶職,車製造職,舟夫,病院(軒数),伝染病院,学校(軒数),神社(軒数),寺院(軒数),水車場,日本形船(50石以上・小船・漁用船),西洋形帆船(5トン以上)
入力データ:記載の有無により,有りは1,無しは数値未記入
郡役所,郵便電信局,郵便局,金庫,警察署,警察分署,その他
入力データ:郡区(市)別
乗用馬車,荷馬車,牛車,荷車,人力車,橇,牛,米,大麦,小麦,裸麦,もろこし
ここで用いる地図データのオリジナルはARC/INFOで作成されたカバレッジである.本システムへのデータ変換プロセスは以下の通りである.
データの作成にあたっては,転送速度を向上させるために,オリジナルの地図を総描 (generalization)し,座標をJavaで提供されるグラフィックに対応した整数の座標に変換した.GISにおける地図総描については,Douglas-Peuker の方法がARC/INFOなどをはじめ広く用いられているが(Goodchild and Kemp, 1993),ここでは第4図で示されるより簡略な方法を用いた.すなわち,最初に図のノードn1,バーテックスv1,v2に着目して,n1からv2に直線を引き,このn1−v2の線分とv1との距離を計算する.この距離が予め設定した閾値より小さければ,バーテックスv1は除去する.第4図においては,右下に示す閾値より大きいので,v1は残す.次にv1からv2に直線を引いて,この直線からv2への距離を計算する.この場合閾値より小さいので,v2は除去する.この方法をノードn2まで繰り返していく.この方法をオリジナルの地図に適用した結果, データ量は約25%に減少した.
総描後の地図データは,オリジナルの座標から2,048×2,048ドットの整数スクリーン座標に変換した.この処理により,ファイルサイズは約70キロバイトになった.
次に,明治統計インターネットGISの機能について説明しよう.